メルカリの英国子会社清算から見るグローバル展開の難しさについて

メルカリの英国子会社清算

メルカリの英国子会社清算のニュースを見た。 10億円くらい投資して、売上は43万程度だったとのこと。

メルカリ、英国撤退。売上高43万円 - Impress Watch

この記事によると設立が2015年の11月なので、3年で10億円投資した事になる。

内部の事情はわからないけども、こういうサービス事業なら開発費とプロモーション・セールス費は半々くらいかな。 サービス規模が小さくサーバ費用は少ないはずなので、5人~10人の開発チーム+セールス系の投資でこれくらいの数字になる。



典型的な日本企業のグローバル展開の失敗例

これは典型的な日本企業のグローバル展開の失敗例だと思う。

私は製造業と、ソフトウェアサービスの事業で、それぞれグローバル展開に関わった経験があるが、後者ではとても苦労した。 ソフトウェアやサービスというのは、機能を直接提供している製造業とは違い、現地のニーズに合わせる必要がある。(GoogleFacebookのように、現地にそれまで存在しなかった概念をぶち上げるパターンもあるが、それは今回置いておく)

ユーザの動向をいかに早くキャッチして、追従するかということがビジネスの肝だ。しかし、あるサービスを別の国に持っていくと、その国のユーザからのフィードバックは山ほど来るし、その国のマーケティングや営業戦略に応じた変更も必要になる。 つまり、たとえどこかの国で成功しているサービスであっても、それがそのまま使えるとは限らない。ソフトウェアエンジニアがいつも言う「作り直した方が早い」という状態になる。



現場のつらさ

日米欧の展開ともなると、プロダクトマネージャーは悲鳴を上げる。

各地域から上がってくる各要望をどういう優先順位で、どれくらいリソースをかけて開発するべきか、判断がつかなくなる。 それもそのはず、小さなプロダクトとはいえ、これは経営判断に他ならない。しかも、全ての展開地域の事情に詳しくて自信をもって判断できる人間などいない。

そしてどうなるか。地域別にプロダクトを開発するか、というアイデアが出てくる。しかしこれも大して変わらない。 結局、ビジネスの意思決定が海を越えるので遅くなるという点は同じだからだ。意思決定が遅くなると、ソフトウェアサービスとしては致命的だ。

他国のプロダクトを改修してだましだまし使うか、新しいプロダクトを作るか、いずれにせよ、冒頭に述べたような投資でできることは現地のスタートアップと変わらない。意思決定の材料が不足し、意思決定が遅いという足かせをつけた状態で、だ。 つまり、現地のスタートアップと大差ない開発リソースで戦わないといけない。 なおかつ、マーケットのニーズの成熟具合も国によって違うので、そのプロダクトが必要とされている「時代」かどうかもわからない。

かくして、展開は失敗に終わる。



どうすればよかったのか?

ここは、私もイマイチ答えが無い。

ビジネスモデルはシンプルなので、2つやり方はあるようには思うが・・・

1. 待つ。市場が育っていないなら、現地のスタートアップのように始めてじっくり待つ。でもその時点であまり投資価値はない気がする。

2. 買う。現地で成功している企業をM&Aする。ただし、統合後は同じ問題が発生するので、サービスとしては強く統合せずにナレッジの共有と、財務的な成長メリットにとどめるのが無難だと思う。





この本はマーケティングの名著ですが、業界は違えど、色々な施策を打つことが全部封じられた状態で3年間頑張ったのかなと思うと、現地のメンバーの無念を想像せざるを得ません。